2024年8月26日~9月9日に本戦が行われるテニスの全米オープンについて、ページ下部から時系列順に見どころを解説していきます。
決勝を終えて
第1シードのヤニク・シナー選手が第12シードのテイラー・フリッツ選手を6-3, 6-4, 7-5のストレートで下し、全米オープン初優勝を果たしました。
全米オープン終了後のランキングを見ていきます。まずはトップ10です。
順位 | 選手名 | ポイント | 前回からの順位変動 |
1 | ヤニク・シナー | 11,180 | |
2 | アレクサンダー・ズべレフ | 7,075 | +2 |
3 | カルロス・アルカラス | 6,690 | |
4 | ノヴァク・ジョコビッチ | 5,560 | -2 |
5 | ダニール・メドベージェフ | 5,475 | |
6 | アンドレイ・ルブレフ | 4,645 | |
7 | テイラー・フリッツ | 4,060 | +5 |
8 | ホベルト・フルカチュ | 4,060 | -1 |
9 | キャスパー・ルード | 4,010 | -1 |
10 | グリゴール・ディミトロフ | 3,965 | -1 |
全米オープンを制覇したことにより、シナー選手は今シーズンGSタイトルを2つ(全豪・全米)獲得したことになります。それにより、ATPポイントは全選手の中で唯一10,000ポイント越えを記録しました。
ズべレフ選手はGSタイトルを獲得してはいないものの、GS以外の大会でポイントを稼いでおり、キャリアハイタイの2位に上昇しました。
アルカラス選手もシナー選手同様、今シーズンGSタイトルを2つ(全仏・ウィンブルドン)獲得していますが、GSタイトル未保有のズべレフ選手よりランキングが下の3位となっています。これはアルカラス選手はGS以外の大会で勝ち上がることができていないこと、また昨年優勝した全米オープンで早期敗退を喫したことが理由として挙げられます。
そして全米オープンで初の決勝に進出したフリッツ選手は順位を大幅に上げ、7位にジャンプアップしました。
次に11位~20位を見てみましょう。
順位 | 選手名 | ポイント | 前回からの順位変動 |
11 | アレックス・デミノー | 3,655 | -1 |
12 | ステファノス・チチパス | 3,390 | -1 |
13 | トミー・ポール | 3,005 | +1 |
14 | ホルガー・ルーネ | 2,780 | +1 |
15 | セバスチャン・コルダ | 2,585 | +1 |
16 | フランシス・ティアフォー | 2,560 | +4 |
17 | ベン・シェルトン | 2,490 | -4 |
18 | ウゴ・アンベール | 2,370 | -1 |
19 | ロレンツォ・ムゼッティ | 2,345 | -1 |
20 | ジャック・ドレーパー | 2,315 | +5 |
フランシス・ティアフォー選手が順位を4つ上げ、16位となりました。ティアフォー選手は3回戦のシェルトン選手との試合や、準決勝のフリッツ選手との試合でフルセットの激闘を演じ、今大会を盛り上げた選手の一人です。
初のGSベスト4に進出した、ジャック・ドレーパー選手が初のトップ20入りを果たしました。ドレーパー選手は2001年生まれの22歳(シナー選手と同期)であり、今後が楽しみな若手の一人です。
準決勝を終えて
トップハーフは第1シードのヤニク・シナー選手が第25シードのジャック・ドレーパー選手を7-5, 7-6, 6-2のストレートで破り、全米オープン初の決勝進出を決めました。
第1セットはお互いにブレークし合う接戦となりました。しかし第2セットのタイブレークをシナー選手が制すると、完全にシナー選手の流れになり、ストレートで勝負を決めました。
ボトムハーフは第12シードのテイラー・フリッツ選手が第20シードのフランシス・ティアフォー選手を4-6, 7-5, 4-6, 6-4, 6-1のフルセットで破り、GS初の決勝進出を決めました。
決勝はヤニク・シナー選手とテイラー・フリッツ選手の組み合わせとなりました。2人のプレイスタイルは似ており、どちらもベースライン際から強烈なストロークを打ち分ける”アグレッシブベースライナー”です。
2人の対戦成績は1勝1敗ですが、シード順やタイトル獲得数の観点からはシナー選手が優勢でしょう。フリッツ選手が勝つには、2023年インディアンウェルズ・オープンの第2セットで見せたサーブを、立て続けに決める必要があると考えます。このときフリッツ選手のデュースサイドに打った1stサーブを、シナー選手は驚くことに1本もリターンできませんでした。
シナー選手はリターンも非常にいい選手なので、強烈なサーブをいいコースに入れ続けることは、フリッツ選手が勝つための必要条件になるでしょう。
シナー選手は手首を気にしていたので、プレーに影響がないかが心配です。フリッツ選手はフルセットの疲れや、初のGS決勝の舞台から来る緊張により本来のプレーができないことも想定されます。
年 | 勝者 | 大会名 | サーフェス | スコア |
2023 | シナー | インディアンウェルズ・オープン | ハード | 6-4, 4-6, 6-4 |
2021 | フリッツ | インディアンウェルズ・オープン | ハード | 6-4, 6-3 |
第1シードのシナー選手と地元アメリカのテイラー・フリッツ選手という、非常に盛り上がる組み合わせとなりました。どちらが優勝するのか楽しみです。
準々決勝を終えて
トップハーフは、第1シードのヤニク・シナー選手が第5シードのダニール・メドベージェフ選手を破り、また第25シードのジャック・ドレ—パー選手が第10シードのアレックス・デミノー選手を破ったことで、準決勝はシナー選手とドレーパー選手の組み合わせとなりました。
シナー選手とメドベージェフ選手は、今シーズンの全豪オープンではシナー選手が勝ち、ウィンブルドンではメドベージェフ選手が勝っています。またしてもGSの舞台で衝突することになった2人の試合は、多くの人が注目する一戦でした。
蓋を開けてみれば、メドベージェフ選手が57本ものアンフォーストエラーを記録した一方で、シナー選手は強烈なストロークと圧倒的なコートカバーリングを見せつけ、シナー選手が準決勝進出を果たしました。
ドレーパー選手は6-3, 7-5, 6-2のストレートでデミノー選手に勝利しています。今大会全てストレート勝ちしているドレーパー選手は非常に好調で、第1シードのシナー選手と言えど侮れない相手です。
ドレーパー選手は2001年生まれの22歳で、2024年8月19日付ランキングの25位はキャリアハイでもあります。つまり伸び盛りの選手であり、これから記録を作っていく選手なので、過去の記録などはあまり参考にならないでしょう。
ドレーパー選手はシナー選手に1勝0敗と勝ち越してはいますが、2021年のことですので、当時から2人とも実力を大きく伸ばしているため、ほとんど参考にはならないでしょう。
ボトムハーフは、第12シードのテイラー・フリッツ選手が第4シードのアレクサンダー・ズべレフ選手を破り、またグリゴール・ディミトロフ選手が棄権したことにより、準決勝はフリッツ選手とティアフォー選手の地元アメリカ対決となりました。
ズべレフ選手は終始、浅いボールと深いボールという前後の打ち分けだけの単調な攻撃になっていました。フリッツ選手は左右に走らされると厳しい展開になるのですが、その展開にズべレフ選手が持ち込めなかったため、フリッツ選手にとってやりやすい展開になった印象です。
アルカラス選手やジョコビッチ選手などGSタイトルを獲る選手は、コートの内側に入ってアングルショット含めオープンスペースをつくることに貪欲なプレーをします。ズべレフ選手はベースラインからあまり動かないので、GS優勝を狙うにはプレイスタイルを根本から見直す必要があるのかもしれません。
ディミトロフ選手は今シーズンのウィンブルドンも同様の膝の負傷で棄権しています。”ヤングガンズ”で唯一の現トップ10選手として大会後半まで残ることの多いディミトロフ選手ですが、しっかりと休養を取って怪我を直してもらいたいです。
4回戦を終えて
第9シードのグリゴール・ディミトロフ選手が第6シードのアンドレイ・ルブレフ選手に勝利して、準々決勝進出を決めました。また、地元アメリカで第12シードのテイラー・フリッツ選手が第8シードのキャスパー・ルード選手を破り、準々決勝を決めました。
ディミトロフ選手は”ヤングガンズ”と呼ばれる世代の一人であり、錦織圭選手やマリン・チリッチ選手、ミロシュ・ラオニッチ選手などと同世代の1991年生まれの33歳です。
そんなディミトロフ選手がいまだにトップ10で活躍できているのは、生来の身体の柔軟性やあらゆるショットの技術レベルが高いオールラウンドプレイヤーであることもありますが、集中力の高さも要因の一つに上げられます。
ルブレフ選手との試合では、ここぞというときに集中力を発揮してギアを上げ、最終セット唯一のブレークチャンスをしっかりとものにしたことで勝利をもぎ取っています。
自分のことだけに集中している。リハビリとプレーの良かったこと、改善できることだけに集中している。
by グリゴール・ディミトロフ選手
SNSやスポンサー、ファンなどから多くの言葉を浴びるトップ選手ですが、全てに影響されてしまっては最高のコンディションを保てません。上記のディミトロフ選手のインタビューの言葉からもわかる通り、自分がコントロールできることだけに集中して、他人は他人として切り離すことで、集中力を高めていることがわかります。
ジョコビッチ選手やチチパス選手も、集中力を高める瞑想をトレーニングに取り入れています。”心技体”の内、”心”は目に見えないので鍛えることを後回しにしがちですが、ディミトロフ選手はしっかりと”心”も意識していることがインタビューから伺えます。
ルード選手は、3回戦で商選手相手に4時間近いフルセットマッチをしており、疲れが回復し切っておらず、足が動いておりませんでした。また、ルード選手は先日高熱を出しており、体調も万全ではなかったようです。
それにしても、今シーズンのフリッツ選手は好調で、次のズべレフ選手との試合も非常に楽しみです。
その他にもダニール・メドベージェフ選手やジャック・ドレイパー選手、ヤニク・シナー選手は特に好調な様子で、準々決勝への進出を決めています。
4回戦を終えて、ベスト8が出揃いました。準々決勝の組み合わせは以下の通りです。
<トップハーフ>
- (10)アレックス・デミノー選手 vs(25)ジャック・ドレイパー選手
- (1)ヤニク・シナー選手 vs(5)ダニール・メドベージェフ選手
<ボトムハーフ>
- (4)アレクサンダー・ズべレフ選手 vs (12)テイラー・フリッツ選手
- (9)グリゴール・ディミトロフ選手 vs (20)フランシス・ティアフォー選手
どれも気になる組み合わせですが、中でも今シーズン全豪オープン覇者で第1シードのシナー選手と、2021年の全米オープン覇者で第5シードのメドベージェフ選手との試合は楽しみです。
年 | 勝者 | 大会名 | サーフェス | スコア |
2024 | ??? | 全米オープン | ハード | ??? |
2024 | メドベージェフ | ウィンブルドン | 芝 | 6-7, 6-4, 7-6, 2-6, 6-3 |
2024 | シナー | マイアミオープン | ハード | 6-1, 6-2 |
2023 | シナー | 全豪オープン | ハード | 3-6, 3-6, 6-4, 6-4, 6-3 |
2023 | シナー | ATPファイナルズ | ハード | 6-3, 6-7, 6-1 |
2023 | シナー | ウィーンオープン | ハード | 7-6, 4-6, 6-3 |
2023 | シナー | 北京オープン | ハード | 7-6, 7-6 |
2023 | メドベージェフ | マイアミオープン | ハード | 7-5, 6-3 |
2022 | メドベージェフ | ロッテルダムオープン | ハード | 5-7, 6-2, 6-2 |
2021 | メドベージェフ | ウィーンオープン | ハード | 6-4, 6-2 |
2021 | メドベージェフ | ATPファイナルズ | ハード | 6-0, 6-7, 7-6 |
2021 | メドベージェフ | マルセイユオープン | ハード | 6-2, 6-4 |
2020 | メドベージェフ | マルセイユオープン | ハード | 1-6, 6-1, 6-2 |
シナー選手とメドベージェフ選手の対戦成績は7勝5敗でメドベージェフ選手が勝ち越しています。しかし直近ではウィンブルドンで勝ってはいるものの、その前はシナー選手に5連敗を喫しています。2023年シーズンの北京オープン付近からシナー選手は覚醒しており、2023年前半シーズンと今のシナー選手は別と考えた方がよいでしょう。
今大会の勝ち上がり方を見てみても、両者ともにコンディションはよさそうです。前哨戦2大会を早期敗退したメドベージェフ選手のコンディションですが、4回戦をわずか1時間51分で完勝したことから見ても、全く問題なさそうです。
その他のベスト8の面子を見てみると、ボトムハーフには2人の地元アメリカの選手が残っており、対戦相手はアウェーの中での試合になるので、やりにくそうではあります。ズべレフ選手は東京オリンピック金メダル、ATPファイナルズ優勝など輝かしい結果を残していますが、GSタイトルはいまだ保有していません。BIG4やアルカラス選手が不在の今大会、ズべレフ選手のGS初タイトルに期待がかかります。
ウィンブルドンで股関節を負傷したデミノー選手は、これまでの試合を見ても問題なく動けているので、怪我は完治したと考えてよさそうです。ジャック・ドレイパー選手は2001年生まれの22歳で、前哨戦のシンシナティ・オープンでチチパス選手やアリアシム選手を破って準々決勝に進出しています。ドレイパー選手は今がまさにキャリアハイの25位と、絶好調の選手です。今大会ここまで全てストレート勝ちをしており、勢いのある選手です。
3回戦を終えて
第2シードのノヴァク・ジョコビッチ選手、第18シードのロレンツォ・ムゼッティ選手が3回戦で敗れ、先のパリ五輪メダリストが全員1週目で姿を消したことになります。
ジョコビッチ選手に勝利したポピリン選手は、前哨戦であるエルステ・バンク オープン(マスターズ1000)でシェルトン選手やフルカチュ選手、ディミトロフ選手、コルダ選手、ルブレフ選手を破って優勝しています。
パリ五輪(レッドクレー)のサーフェスと違い、明らかに影響があった。ニューヨークに着いたときから精神的にも肉体的にも疲れを感じていた。
by ノヴァク・ジョコビッチ選手
パリ五輪(レッドクレー)の遅いコートと比較し、全米オープン(ハード)のサーフェスは速いです。速いサーフェスではサーブがより重要になります(遅いコートだとラリーに持ち込めるが、速いサーフェスだとラリーにならずにサーブでのポイントの取り合いがメインになるため)が、ジョコビッチ選手はその肝心のサーブの調子がよくありませんでした。
ジョコビッチ選手は14本ものダブルフォルトを犯すなどサーブが不調でした。スピンサーブをしようにも、どちらかというとスライス気味のサーブになってしまい、ポピリン選手がスライス回転を予測してリターンで叩く場面が目立ちました。
第13シードのベン・シェルトン選手と第20シードのフランシス・ティアフォー選手の試合は、地元アメリカ勢同士の試合であったこと、またフルセットの接戦だったことから、非常に盛り上がった一戦となりました。
2回戦を終えて
第3シードのカルロス・アルカラス選手、第7シードのホベルト・フルカチュ選手、第16シードのセバスチャン・コルダ選手が2回戦で姿を消しました。
アルカラス選手は今シーズンはGS2冠(全仏、ウィンブルドン)しており、今大会も最有力候補の1人であったため、2回戦で姿を消すのは予想外でした。アルカラス選手に勝利したのは、ボティック・ファン・デ・ザンスフルプ選手です。ザンスフルプ選手は2021年に全米オープンでベスト8に進出しています。今大会もどこまで勝ち上がるか楽しみです。
ザンスフルプ選手は、やや軌道高め&ペース緩めのストロークを終始打っていたため、アルカラス選手は自分からハードヒットすることを余儀なくされました。 また、ザンスフルプ選手のディフェンス力が高く、思ったように決めきれず、アルカラス選手はフラストレーションを溜めていったように見えました。
(全仏、ウィンブルドン、パリ五輪)と続き、エネルギー不足だった。パリ五輪の後に休息をとったが、不十分だった。自分が思った以上に、大きな大会に臨むためにはもっと多くの休息を必要するようだ。
by カルロス・アルカラス選手
敗退後のインタビューで述べた通り、アルカラス選手はエネルギー切れでハードヒットのフィーリングが良くない様子でした。また、戦術面でも工夫する余裕がなく、スピン量少なめのドライブショット一辺倒であり、ザンスフルプ選手が返球しやすい球質であったことも、アルカラス選手の敗因だと思われます。
フルカチュ選手はウィンブルドン、パリ五輪を右膝の負傷で棄権していますので、コンディション不良だと思われます。
コルダ選手は今シーズンは好調でキャリアハイを更新し続けていたのですが、試合中に肘を気にした様子を見せてからはミスが多くなってしまいました。
1回戦を終えて
第11シードのステファノス・チチパス選手、第15シードのホルガー・ルーネ選手、第19シードのフェリックス・オジェ アリアシム選手のシード勢が初戦敗退するという、驚きの事態になりました。
チチパス選手とアリアシム選手は共にシナー山の選手でした。シナー山の中でもヤニク・シナー選手とは反対側は、シード選手が第5シードのダニール・メドベージェフ選手のみということになりました。メドベージェフ選手は、4回戦まではシード選手とあたる可能性はなくなりました。
チチパス選手は前哨戦も早期敗退が続いており、トップ10から外れるなど苦しい時期が続いています。
チチパス選手は先日、長年コーチを務めていた父親とコーチ契約を解消しましたが、いまだ不調が続いております。試合後のインタビューでチチパス選手は、次の通りメンタル面の不調について言及しています。
以前のような情熱がなくなってしまった。ここ1~2年、(2021年シーズンのときのような)ハングリー精神を感じられなくなった。
メンタルコーチを新たに陣営に向かい入れるなど、チチパス選手をフィジカル面だけでなく、メンタル面からバックアップできるようなコーチが必要なのかもしれません。
ルーネ選手はキャリアハイ4位の有望な若手選手ですが、今シーズンはGSで思うような結果を出せていません。初戦敗退後に、メディアに下記のように答えています。
サーブやバックハンドを打つとき、足を曲げると痛む。サーブを打つとき、いつも右ひざに頼っている。サーブなしでテニスに勝つのはとても難しい。
たしかに今回の試合はルーネ選手はダブルフォルト5回、バックハンドでのミスも目立ちました。先のパリ五輪も手首の怪我で出場を辞退しております。ハードな練習も必要ですが、これ以上怪我を悪化させないように戦略的な休養をとる(とは言っても、ATPの規定で最低出場回数が決められており、休むとランキングが大幅に下がる仕組み)という決断も、長期的なキャリアを見据えると必要になるのかもしれません。
アリアシム選手はキャリアハイ6位で今大会も第19シードと実力のある選手ですが、GSでの早期敗退は珍しいことではありません。アリアシム選手は強打を武器にしたベースライナーで、ネットにはあまり出ません。今回の試合も相手選手に揺さぶりをかけることがなく、メンシーク選手からしたらアリアシム選手の動きや配球は予測しやすかったと思います。また、アリアシム選手は10本ものダブルフォルトを記録したことも勝敗に大きく影響しました。
シードダウン以外にも、1回戦にはたくさんのドラマがありました。ドミニク・ティーム選手、ディエゴ・シュワルツマン選手という元トップ10プレイヤーが今シーズン限りでの引退を表明しており、今回の全米オープンが現役最後のGSということになりました。
ティーム選手は2020年の全米オープン覇者であり、全豪オープン準優勝1回、全仏オープン準優勝2回、キャリアハイ3位とGSでも素晴らしい結果を残しました。しかし、2021年以降は右手首の怪我の影響から武器であった強烈なフォアの威力が失われてしまい、ランキングが低迷しておりました。
シュワルツマン選手は170センチと小柄ながら最高8位まで上り詰めた選手です。クレーコートを得意のサーフェスとしており、2020年の全仏オープンではベスト4という結果を残しております。
残念ながら両者ともに初戦敗退となりましたが、最後のGSにふさわしい充実した試合内容でした。
さらに今大会の1回戦では、全米オープン史上最長試合の記録が塗り替えられることとなりました。ダニエル・エヴァンス選手 vs 第23シードのカレン・ハチャノフ選手との試合は5時間35分にも及び、6-7(6-8)、7-6(7-2)、7-6(7-4)、4-6、6-4でエヴァンス選手が勝利しました。最終セットは4-0、40-15とハチャノフ選手がリードしていたのですが、そこからエヴァンス選手が怒涛の追い上げを見せました。
ドロー
まずはシナー山です。
シナー山は第1シードのヤニク・シナー選手が最有力でしょう。シナー選手は今シーズンは全豪オープンのタイトルを獲得しており、前哨戦のシンシナティ・オープンでも優勝しています。
2021年の全米オープン覇者である第5シードのダニール・メドベージェフ選手ですが、前哨戦のナショナル・バンクオープン、シンシナティ・オープンを共に初戦敗退しており、調子が上がっていない様子です。
第11シードのステファノス・チチパス選手も、前哨戦のナショナル・バンクオープンを初戦敗退、シンシナティ・オープンを2回戦敗退と不調が続いております。
他には前哨戦のウィンストン・セーラム オープンで優勝したロレンツォ・ソネゴ選手と、地元トミー・ポール選手との試合は注目のカードですね。
次にアルカラス山です。
アルカラス山は、やはり今シーズン全仏とウィンブルドンの2冠を達成している第3シードのカルロス・アルカラス選手が大本命でしょう。しかし、8月24日の練習中に捻挫してしまい、練習を切り上げる場面がありました。この怪我の影響がどこまであるのかはわかりませんが、それでもGSのアルカラス選手の安定性は頭1つ抜けている気がします。
上位シードの怪我が目立ちます。第7シードのホベルト・フルカチュ選手は、右膝の負傷でウィンブルドンを棄権した後にリハビリを続けていましたが、パリ五輪も棄権しています。また、第10シードのアレックス・デミノー選手も股関節の負傷によりウィンブルドンを棄権しています。
シーズン終盤の全米オープンとなると、毎年怪我に悩まされる選手が多くなってきます。怪我人の多いアルカラス山を勝ち上がるのは、誰になるのでしょうか。
次にズべレフ山です。
2020年に全米オープンを準優勝している第4シードのアレクサンダー・ズべレフ選手を筆頭に、第8シードのキャスパー・ルード選手、第12シードで故郷アメリカの期待の星テイラー・フリッツ選手、第15シードのホルガー・ルーネ選手、今シーズン好調で第18シードのロレンツォ・ムゼッティ選手…と、4つの山の内だと最も勝ち上がる選手を予想しにくい山です。
ズべレフ選手は前哨戦のナショナル・バンク オープンでコルダ選手に準々決勝で敗れ、シンシナティ・オープンでは準決勝でシナー選手に敗れるなど、今一つ勝ち切れないでいます。
ズべレフ山はシード選手以外にも、ダークホースとなり得る選手がひしめいています。身長203センチで21歳(2003年生まれ)の若手、ムぺシ・ペリカール選手は今シーズン ツアー初優勝を飾り、ウィンブルドンでもルースブオリ選手を破って16強入りを果たした逸材です。
また、23歳の(2000年生まれ)フランシス・コメサナ選手は今年のウィンブルドンの初戦で第6シードのルブレフ選手を破る大金星をあげた新星です。
最後にジョコビッチ山です。
1か月ほど前にパリ五輪を制覇して、生涯ゴールデンスラムを達成した第2シードのノヴァク・ジョコビッチ選手がジョコビッチ山の最有力候補であることは疑いの余地ありません。
第9シードのグリゴール・ディミトロフ選手、地元アメリカで第13シードのベン・シェルトン選手、同じくアメリカで第20シードのフランシス・ティアフォー選手も侮れません。
第28シードのアレックス・ポピリン選手は前哨戦であるナショナル・バンク オープンで、この山のルブレフ選手やディミトロフ選手、シェルトン選手を下して初のマスターズ優勝を果たしています。
第6シードのアンドレイ・ルブレフ選手は芝シーズンまでは早期敗退が多くて低調気味だったものの、ハードシーズンに入ってからは徐々に調子を取り戻しています。とは言うものの、いまだ本調子とは言える状態ではありません。ルブレフ選手はランキングの割にはGSでの成績で殻を破れていない様子ですが、今後ルブレフ選手がGSタイトルを獲得する姿も見てみたいですね。